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      第3章 エジプト美術に秘められた象徴表現





 
    第3節  ネフェルと香油壺

 第1節のヒエログリフの造形的活用に該当するのだが、も壺のデザインとして用いられた例がある。

「ネフェル形の壺(デール・アル・=マディーナ、カーの墓、第18王朝)98p」
について、「非常に幅の広いへりやその他の細かい点から、ネフェルのヒエ
ログリフの形をまねていることがわかる。首の部分を見ると、ネブ(neb)のか
ご<*V30>の上にネフェルのヒエログリフそのものが描かれており、壺と
ヒエログリフの関連性を一目でわかるように強調している。99p」

 この壺がを真似ているとするなら、多くの壺はを連想させると言っても
過言ではなかろう。



左はティイ王妃の両親の壺である。その取っ手を真後ろに
位置させたときの予測図が右である。かなりに似ている
印象を受けるだろう。







http://anubis4_2000.tripod.com/SpecialExhibits/PIAKV46.htm



Ornamental alabaster  perfume vase made from two pieces of alabaster
http://www.eternalegypt.org/EternalEgyp
tWebsiteWeb/HomeServlet?ee_website
_action_key=action.perform.ent_type.
search&language_id=1&trait_item_id=60057
&search_subtypes=yes

Unguent Vase with Plants in Openwork Design
http://www.touregypt.net/museum/tutl66.htm

 誕生名と即位名の上が、多少突き出ている。それを
ウイルキンソンは乳房のようだと指摘している。


 これはツタンカーメンの香水壺であるが、のように、頭部に二重の横棒があるように作られている。ところ
が、全体としてセマタウイを表わしているから、そうすれば壺はを意味しているとも考えられる。


http://travel.webshots.com/album/556412877jmLdlm?start=12
「Peffume Vase Tutankhamen's Tomb」

 大きな画像でみると二本目のラインは、ハトホル女神の顔と重なる位置にあり、本来邪魔なラインである。
それでも入れたのは、であることを強調するためだったのではないだろうか。同じように、なのか
釈然としない作品がある。






p://www.ancient-egypt.co.uk/cairo%20museum/cm,%20tutankhamun,%20statues/ThumbnailFrame.htm

 ウイルキンソンは、なんの疑いも持たず「この壺には王の像がのった栓がないが、守護神のハゲワシが翼を
大きく広げた様子を見れば、ここに王の像があったことがわかる。新王国時代になると、このモチーフはさらに
大きな変化をとげた。上下エジプトを象徴するユリとパピルスをエジプトの神々がもつのではなく、「統一」の両
側にひざまずいた異国人の捕虜<*A13>がユリとパピルスの茎で縛られているモチーフが現われたのであ
る①102p」と告げている。
 すると新王国時代に至ってセマタウイは、本来の意味から転じて捕虜の象徴となった事を意味する。だから
この作品も、従来の意味だと思い込むのは危険なのではないか!
 さてが、象徴的な意味で活用されたと思える作品がある。幸い、西村洋子先生が翻訳して下さっている。
 ( http://www.geocities.jp/kmt_yoko/SI_1.html )より。

アメンエムハト3世のピラミディオン(JE35122)より (31/1/2005)

「話される言葉 : 彼が天空を渡るとき彼が地平線の支配者を見るために、

上・下エジプト王、両国の支配者、ニーマートラーの顔は開かれた。

彼が太陽神ラーの息子、アメンエムハトを神、永遠の支配者、沈まないものとして現れさせますように。」







上のご解説より音訳を引用させて戴いて、ヒエログリフ文を検証する。



 それでは、アメンエムハト3世は、どのような扉を開けて、お顔をお披露目なさったのだろうか?それ
を知るには先ず、図柄を読み解かねばならない。西村先生のご教授がヒントとなる。

<この碑文の上には翼を広げ、二匹のコブラに守られた日輪とマアーネフェルーラー「太陽神ラーの美を見る。」
という縦書きの碑文が彫られています。この碑文の主語はアメンエムハト3世です。>

この縦書きの碑文はヒエログリフであると同時に人もしくは神のお顔となっている。有翼太陽円盤は髪であり、
対のウジャトは両目、「ネフェル」は鼻、太陽は口となっている。殆どの人物が横顔で描かれるエジプト美術の
なかで、顔「hr」は例外的に正面をむいている。しかも、「マアーネフェルーラー」のヒエログリフで描かれた顔
も正面であるから、「顔を開く、お見えになる」とは、ファラオが象徴的なお顔=「マアーネフェルーラー」によっ
て表現され顕れたことを暗示しているのである。同様の表現が第25王朝時代にも認められる。(王名はピアン
キと読める。)


では何故、鼻が「ネフェル」なのだろうか、それはピラミッド・テキストの記述に由来しているのではないか。

 『余は、ラー神の鼻孔である蓮の花からネフェルテム神として出現する。(蓮=鼻)』

 だから最初の香水壺のハトホルの胸飾りの下には蓮の花が描かれていたのだろう。マリア・カルメラは、
 「(白よりも青いスイレン)の方が香りがよく、神聖視されていた(中略)。スイレンの花は美の象徴であり、
『ネフェル(美しい)』の通称で呼ばれたり、そのヒエログリフが『ネフェル』の表記に使われた。⑤138p」と言
及している(蓮=ネフェル)。







 以上より、蓮=鼻=ネフェルという等式関係が成立していたと理解できる。つまり蓮(≒青い睡蓮)は香水
の原料であり視覚的美しさもネフェルなら、香りの良さもネフェルだったのである。ファラオの香水瓶を形作るに
は、以外に相応しいヒエログリフは無く、香水瓶はとして作られたのである。しかも、蓮=鼻=ネフェル
であるから、瓶は蓮でもある。だから、ネクベトに守られて瓶=蓮の上で栓の役を務めたのはネフェルテム神
だったと、安易に想像できるのである。すると何故、他方の香水瓶が乳房を持っているかが理解できる。壺は
ハトホル女神で、暗闇に包まれた瓶内は、胎内にして原初のヌンである。当然、香水は原初の水であるから、
そこに潜んでいる胎児の神はネフェルテムなのである。

 さて、アトゥムは英語のアトムに似ているが、その意味は以下である。
http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0030/part1/chap01/com1_1_1.html
 より

「英語のatom は、ギリシャ語の動詞temnein(切る)と否定の接頭語aとからなる形容詞 atomos(切れない)
に由来しています。このような考え方はデモクリトスによって唱えられたといわれています。」

 一方、ギリシャ語の atomos(切れない)が、エジプト神アトゥムに由来すると指摘するサイトがある。

 「●アトゥム神 世界創造の神で、日没時の太陽神。上・下エジプトを象徴する二重冠をつけた男性像で表
されています。鉄腕アトムでおなじみ、「分割し得ぬもの」という意味のギリシャ語「アトム(原子)」は、この神に由
来するともいわれています。http://www.aurora-net.or.jp/art/dokinbi/info/1minite/00egypt.html 」

 (ア)テムは、フォークナーによれば「be complete,everything,to complete」だが、
ウォーリス・バッジによれば「no,nothing(何も~ない),nought(無)、nothingness(空虚、存在しない)」
である。恐らく、デモクリトスはエジプト語の(ア)テムの概念に倣って原子をイメージしたと推測できよう。つま
り、我々以上に『(ア)テム』のニュアンスを知っていたギリシャの賢人は、この神が「隠れているか、最小であ
るために見えない」ことを知っていたのである。また、エジプトには見えないが美しい神がいた。この神はラー
の鼻孔である蓮の花から生じた、麗しくも幼い神であり『ネフェルテム』と呼ばれた。エジプト人は視覚的に美
しい事物をネフェル「美しい」と表現したが、見えないが嗅覚的に素晴らしい芳香も「美しい」と表現したのであ
り、その神は見えないから「tm]と表現されたのである。つまり、『ネフェルテム』とは『芳しい香り』の意味であ
り、それゆえに、香水の神は『ネフェルテム(=見ることの出来ない美しさ)』なのである。

下図はユリの花を絞って香水を抽出している浮彫である。

fig. 10
http://www.hort.purdue.edu/newcrop/tropical/lecture_35/lec_35.html

 新王国時代、セマタウイは一方で捕虜を縛る図柄に変更されたが、他方、ロータスの花を搾って香水を抽出
する象徴性を付与されたのである。双子のハピ神は、上下エジプトを結合しているのではなく、ロータスの花を
絞って香水を抽出しているのである。それは天地開闢の御業でもある。だから壺は原初の蓮ネフェルであり、
その中に潜む香水は原初の水で、この中から生まれ出でる芳しい神は、香水の神「ネフェルテム」なのである。
恐らく、古代エジプトにおいて、それは周知の事実であったに違いない。

① リチャード・H・ウィルキンソン 「図説古代エジプトシンボル事典 原書房 2003.3.15」
② 西村洋子先生 「古代エジプト史料館」 http://www.geocities.jp/kmt_yoko/
③ E・A・W・バッジ「an egyptian hieroglyphic dictionary Dover 1978」
④ 岩出まゆみ解説「エジプト 美の起源 小学館 1997.7.10」
⑤ マリア・カルメラ・ベトロ 「図説 ヒエログリフ事典 創元社 2001.7.10」
⑥ リュト・シュマン=アンテルム著「エジプトの神々事典 河出書房新社 1997.1.24 矢島文夫訳
⑦ イアン・ショー「大英博物館 古代エジプト百科事典 原書房 1997.5.10 」

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